岡崎さんのウェールズ滞在日記17

岡崎さんのウェールズ滞在日記17


17.古いテープからひもとく想い出

 先日棚を整理していたら、古いテープが出てきました。おそるおそるテープレコーダーにかけてみると、なんと、笑い声から始まるアカペラのウェールズの国歌が聞こえてきました。

 「明日までに、ウェールズの国歌を歌えるようにしてきなさい」という宿題をいただいてきたYear4の息子。歌詞は持ち帰りましたが、メロディーがあやふやで、歌になっていません。そこでわたしは、隣家の老夫婦のところに行って、お願いして歌ってもらっていらっしゃい、と送り出してみました。妹をお供に二人で教えてもらってきたものの、家で歌わせてみると、どんな曲なのかさっぱりわかりません、、、。そこで、今度はテープレコーダーを持たせて、録音させてもらっていらっしゃい、と送り出しました。すると、老夫婦の笑い声から始まる、お二人の美声によるウェールズの国歌を無事録音させていただいて帰ってきました。そこから特訓して、息子はなんとかウェールズの国家を歌えるようになって翌日学校に行きました。お隣さんも巻き込んでの宿題でしたが、結構楽しく、それに後々役に立つ宿題でした。それにしても、まさかお隣さんも、日本にいまだ歌声が保存されているとは思いもよらないことでしょう!

 お隣のご主人には、他にも想い出があります。

ウェールズに住みはじめて1年くらいたったころでしょうか、生垣で囲まれている庭でいつものように兄妹でサッカーをしていたら、ボールがどこかに飛んでいってしまい、探してもみつからないという状況になりました。数日たっても見つからず、すぐに新しいボールを買ってもらえるわけでもないので、困っていた息子は「そうだ、チラシを作って近所に配ろう!」と思い立ちました。A4の紙に、妹と二人でサッカーボールの絵を描き、見つけた人は知らせてください、というような文面を書いて何枚かコピーをし、肩掛けカバンにいれて郵便やさんのごとく意気揚々と妹と近所に配りに出掛けたのです。

 まずはお隣さんへ。すると、おじいさんはチラシを見るなり「知っているよ、庭の生垣の上の方に沈み留まっているよ」と教えてくれました。ご自分の家の庭の手入れをしている時に、みかけていたらしいのです。そして、おじいさんは脚立を持ち出してこちらの庭まで持ってきて、ゆっくりした動きでボールを取ってくれました。もちろん、こどもたちは、大喜び。ボールが手元に戻ったということと共に、一軒目ですぐに目標を達成できたことやチラシを作った甲斐があったという満足感もあったからでしょう。そして、もうひとつ心に残ったのは、お隣のおじいさんの左腕は、サッカーボールをとるときもずっと動いていなかったこと。でも、おじいさんは、にこやかに、ゆっくりした動きで、右手でボールを取り、子供達にわたしてくれたのです。 自由にならない部分が自分の身体にあったとしても、自由になる部分を使えばよいということ。うまくいかないことがあっても、考えてアイデアをだして行動してみることで、解決することもあるということ。サッカーボールをどこかに飛ばしてしまった、ということだけで、こどもたちはこのようなことも知ることができました。

 考えることができる、というのは、自立した生き方をしていくうえで、極めて重要だと思います。そして小さいときに、たっぷり遊んだ経験は生きる力につながっていくように思います。

 最近日本では、大学受験の際に、暗記主流の試験ではなく、考えることができる人を育てるようにという方向に変えていこうという動きがあるようです。そのニュースを聞いた娘は、今更ね、と複雑そうでした。

娘が英国から日本の中学一年生になった際、日本の授業の様子にとまどっていました。「ママ、日本の学校はね、行く必要がないんだよ。ただプリントを暗記すればいいだけだから、家でできるの。学校で授業を受ける必要ないの」と。なるほど、、、娘の言い方は極端ではありましたが、娘の学校の試験の多くは、一字一句、解答どおりに暗記して、それを記入することで点数をとっていくものでした。自分の言葉にしてはいけないのです。意見も書いてはいけません。国語も、自分だったらどう考えるか、などは考えずに、定期試験できかれているのは、筆者がどう考えたか、でした。そのような中で育った娘も一日も学校を休むことなく通い、高校三年生となり、とうとう受験生です。

 受験科目に小論文の試験もあるので、最近小さい塾に行き始めました。歯に衣着せない先生なので厳しいらしいですが、小論文は自分の考えを書けるので結構気に入っているようです。先日、「14年間教えてきてこういう考えを書いた生徒は初めて、是非そういう部分をなくさないように」と言われた、褒められた、と帰ってきました。自分の考えを認めてもらえたことが嬉しいようでした。普段は面倒なので反論をしない、という娘が「外国にいて日本の勉強ができなかったことを不利だと思わないか?」とその先生に質問された際に、『外国に住んでいたことを損したとは思っていません』とはっきり答えた、とわたしに話すので、娘が自分の過去を肯定し誇りに思っているのだと安堵しました。

 子供は、どんどん大きくなっていきます。子育て中の親御さんたちは、毎日毎日やることが多くて大変かと思います。その中で、お子さんの勉強に手をかけ一緒に宿題に取り組む機会なども少なくないことでしょう。それらは、日々の小さなことではあっても、いつの間にか、親子にとって共有の素敵なものを育んでいる幸せな時間なのだと思います。
(2012年6月)

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