第10回 ナショナル・トラストの創世記 - Dinas Oleuディナス・オライ/バーマス(ウェールズ)

10 dinas oleu本連載も10回目を迎えました。ひとつの節目でもあるので、今回はナショナル・トラストの創世記についてご紹介しましょう。

英国ザ・ナショナル・トラスト(以下、ナショナル・トラスト)の正式名称は「The National Trust for Places of Historic Interest or Natural Beauty」。イングランド、北アイルランド、そして我らがウェールズの美しい自然や貴重な歴史的建造物を市民の寄付や寄贈によって取得し、保存、管理、公開することを目的とした民間のチャリティー組織です。

 その誕生は1895年、今から百年以上も前に遡ります。当時の英国は産業革命の成功とともに、「世界の工場」と謳われ大きな経済発展を遂げましたが、その一方で都市の過密化、工業汚染による公害、都市圏の生活環境の劣悪化、またカントリーサイドにおける乱開発が大きな問題となっていきました。

 そのような背景の中、ナショナル・トラストの誕生から更に遡る1865年にロンドンにおいて「入会地保存協会(現在はオープン・スペース協会と改称)」という、鉄道敷設をはじめとする土地開発の波から、自然豊かな広大な土地を守ろうという運動「オープン・スペース運動」が起こりました。この運動は当時のさまざまな土地の不必要な乱開発行為に抵抗し、数多くの実績を収めましたが、任意の組織のために「市民の憩いのために必要な土地を取得し後世に残してゆく」という最終目的に至るには限界があったのです。

 そこで、この「入会地保存協会」の弁護士であったロバート・ハンター(Sir Robert Hunter,1844-1913)、同じく同協会で働き、当時住宅改良家としても有名であったオクタヴィア・ヒル(Octavia Hill,1838-1912)、更に英国湖水地方の牧師であり、湖水地方の環境保護運動の先駆者的役割を果たしていたハードウィック・ローンズリィ(Canon Hardwicke Drummond Rawnsley,1851-1920)の3人の市民運動家によって、市民のための憩いの場としての自然的景勝地、および歴史的名勝地を取得し、後世に残すことを目的としたナショナル・トラストが生まれたのです。

そして、このナショナル・トラストが取得した記念すべき第1号地は、設立の年に人の手がまったく入っていないウェールズ、カーディガン湾にある港町バーモスの崖地、「ディナス・オライ」でした。ウェールズの土地が、今日(こんにち)のナショナル・トラストの最初の一歩だったというのは、とても嬉しいことですね。

「ディナス・オライ」はハリエニシダに覆われた4.5エーカーの崖地で、頂上付近は牧草地になっています。「光の要塞」を意味するこの地は、眼下の海面が浴びる日の光が逆反射し、眩しいばかりの光景を目にすることができます。

ナショナル・トラストが所有する数々のカントリー・ハウスやガーデンに比べると、何の変哲もない崖地ですが、自然がつくりあげた美しい景観こそが、国民すべてのものであり、後世に残すべき素晴らしき遺産なのだと、創立者3人の真の声が聞こえてくるような場所です。

Information

Dinas Oleu
Barmouth, Gwynedd LL42 – Wales
http://www.ukattraction.com/central-wales/dinas-oleu.htm
または
http://www.nationaltrust.org.uk/main/w-global/w-localtoyou/w-wales/w-wales-places/w-wales-places-coast_countryside.htm

写真 ©NTPL/Joe Cornish

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