第10回------ウェールズ人の海賊たち(1)

パイレーツ・オブ・カリビアン(Pirates of the Caribbean)という映画がヒットした。パイレーツって何だ?という向きもあるが、ピンクレディーの「波乗りパイレーツ」というのがあったな、と思うのはちょっと古いか?パイレーツとは海賊である。

太古のむかしより海賊がいたし、今もいる。時どき、マラッカ海峡での海賊襲撃事件が報道され、海賊ってまだいるの?と思うようではだめなのである。海賊は永遠であり、今でも著作権違反の不法コピーは「海賊版」として世界を席巻している。また、海賊はロマンを掻き立てる。R・L・スティーヴンソンの小説『宝島』には、片目で片足のロング・ジョン・シルヴァーが、J・M・バリの劇『ピーター・パン』にはフック船長が登場する。詩の世界では、バイロン卿の『海賊(コルセア)』(1821年)は発売と同時に1万部が売れたという。女性の海賊だっていたのだ。それは怖い女海賊だったが。しかし、海賊は決してロマンティックな冒険者ではない。残酷で非人道的な、身の毛もよだつような残虐行為と殺戮を繰り返し、財産と人命を奪う凶暴な人々であった。

イギリスは海賊と縁が深い。西暦400年頃までには、ブリテン島近海ではサクソン人の海賊行為がごく一般的になり、西暦800年頃からはヴァイキングの活動が盛んになった。海軍が未発達であった時代には、各国は戦時には敵国の艦船を攻撃し、拿捕し、町を襲い、略奪することを許す認可状、すなわち「私掠免許状」を民間の船に与え、間接的にその海軍力を補った。「海賊営業許可書」を出したのである。それらの国の中でも、公認の海賊行為を積極的に奨励したのが、16世紀および17世紀のイギリスであった。奴隷交易で富を得、のちにスペイン船や植民地を襲ったプリマスの商人ジョン・ホーキンズ(1532-1595)や、ホーキンズの親戚で同じく奴隷交易やスペイン攻撃で懐を肥やし、世界一周を果たし、後にスペイン無敵艦隊の撃破に功のあったサー・フランシス・ドレイク(1540-1596 )たちは代表的な「私掠船長」(Privateer)であった。彼らは、公的に認められた民間武装船である私掠船に乗り、主に大西洋やカリブ海やアフリカ沿岸で、スペインやポルトガルの船舶に対し、拿捕や積荷の略奪を行った。

これらの略奪品を売りさばく港として、またイギリスの私掠船や海賊の根拠地として、コーンウォールのプリマス港やファルマス港が、またウェールズではペンブローク州のハヴァーフォードウエストが有名であった。海賊たちが捕獲した積荷は、砂糖、黄金、宝石、象牙、絹、薬品、香料など貴重なものばかりであった。中にはフランスの漁船を拿捕し、その魚を売りさばいた者もいた。彼らは捕獲した船や略奪した物品の価格の10%を税金として国に納めた。したがって、この私掠状をもたないものや、もっていても税金を払わないものが海賊ということになる。政府は主要な港に、この税金を徴収する役人を置いた。今も昔も、国家は許認可権を握り、脱税は決して許さないのだ。海賊たちの取り分は、通常は船主が利益の2分の1、船長は4分の1、乗組員が残りの4分の1を取った。船主と船長で2分の1,残りが乗組員の取り分という場合もあった。また、乗組員は固定給という事例もあった。

ウェールズといえばまず山を想像するが、海や海賊とも密接な関係がある。ウェールズの沿岸地帯に住むジェントリーは海賊業に深く関わっていた。彼らは海賊に資金や隠れ家を提供したり、また地方行政官として海賊行為に目をつぶり、さらに海賊に大義名分を与えたりした。そしてその見返りで、大いにその懐を肥やしていたという。北ウェールズの代表的名家であったグリフィーズ家も海賊行為に深く手を染めていた。しかし、これが遂にばれて、その名家も没落したという。

南ウェールズに目を転ずれば、16世紀にはブリストル湾でも海賊が横行したという。17世紀になると、当局が海軍艦艇でブリストル湾沿岸を巡回するようになり、海賊は姿を消したが、今度はこれに代わり、密輸が横行した。特に、カーディフの沖合にあるフラット・ホーム島はブリストル湾の中央にあるため、取り締まりが難しく、密輸の温床となった。

カーディフは、ブリストルやブリストル湾に沿った小さな港と食料などの沿岸貿易が盛んであり、海運業と大変関係が深かった。そのようなわけで、南ウェールズ出身者のある者は海軍軍人となり、またある者は水夫となり、カリブ海やアメリカに遠征した。なかには、海賊になった者もたくさんいた。そのなかでも、海賊中の海賊として悪名を轟かせたウェールズ人が2人いる。史上最も有名なバッカニアで、残酷でずる賢いヘンリー・モーガンと、ハンサムでエレガントな服装を好んだ「偉大なる海賊」バーソロミュー・ロバーツがそれである。(つづく)

バーソロミュー・ロバーツ     ヘンリー・モーガン

バーソロミュー・ロバーツ                  ヘンリー・モーガン

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