第18回------マリ・スイード – 南ウェールズの獅子舞?なまはげ?

日本ではむかし、正月にするものと言えば、カルタ、凧揚げ、羽根つきというのが定番であったが、今ではそのようなもので遊ぶ子供などいないだろう。同じように目にしなくなったものに、正月の獅子舞がある。家々の戸口を廻り、一舞し、口の中に祝儀を入れてもらい、時にはその家の子供の頭を獅子頭の大きな口でパクリ。泣き出す子もいる。この獅子頭は多くの場合木製だが、和紙を張った張りぼてや、さらに最近では発泡スチロール製のものもあるという。

 私の記憶に残る古い正月風景の一つに、まだ子供の頃、白黒テレビで見た三河万歳があった。能・狂言で着るような衣装をまとい、小鼓を打ち、さっぱり理解の出来ない言葉で掛け合い漫才をするのだが、どこが面白いのか、子供の私にはまったくわからなかった。しかし、そのような正月風景にお目にかかることは、もうめったにない。

 ヨーロッパやイギリスで正月に相当するものはクリスマスだが、南ウェールズのクリスマスには獅子舞と三河万歳を一緒にしたような「奇習」マリ・スイード(Mari Lwyd)がある。マリはメアリーに当たるウェールズ人の女性の名で、スイードは「灰色」を意味するウェールズ語である。したがってマリ・スウィードは「灰色のメアリー」という意味になる。この「マリ・スイード」はクリスマスに行われるイベント自体を意味すると同時に、そのイベントで主役を演じる「獅子」そのものをいう。しかし、その「獅子」は日本の、見方によればかなり愛嬌のある獅子とは違い、どちらかと言うと、不気味で恐ろしい獅子なのだ。なぜなら、獅子頭にあたるマリ・スウィードの頭部は、白骨化した馬の頭蓋骨だからである。胴の部分は白いシーツで、その中に人が入り、獅子頭の口よろしく、白骨の顎骨をパクパクさせるのである。怖さと迫力と言う点では、日本の獅子はマリ・スイードには到底かなわないであろう。では、マリ・スイードとはどのようなイベントなのであろうか。

 南ウェールズの郡部ではクリスマスになると、色とりどりのリボンで飾られたマリ・スイードが4〜5人の人々に連れられて、家々を訪れる。そのそれらの人たちは、守衛官や従者やイギリスの子供たちに大人気の人形劇の主人公パンチとその妻ジュディに扮している。彼らはマリ・スイードを家の前に連れて行き、最初は戸口でその家の住人と、掛け合い万歳よろしく、歌合戦をするのである。15曲ぐらい歌うと、マリ・スイードとその一行はやっと家に入れてもらえる。家に入ると、マリ・スイードは食べ物や飲み物が出る間、その家の小さな女の子に噛みつこうと、骸骨の口をパクパクさせ、家中を追いかけるのである。大晦日に、「悪い子はいねが〜」といって家々を廻わる東北の伝統的民俗行事「なまはげ」のウェールズ版である。女の子たちは逃げまわるのだが、さぞ怖かったであろう。その家でのもてなしが終わると、マリ・スイード一行は次の家に向かう。

 このように来客を暖かくもてなすのは、ウェールズの伝統ある慣習であった。また宗教上の目的で、家々を廻り、小麦粉などを供出してもらう慣習もあった。このマリ・スイードのイベントはこれらの伝統に根ざすものであろう。また、この風習はクリスマス前宵祭やクリスマス後の十二夜祭に飲む祝い酒の風習から来ているともいう。実際に、馬の頭蓋骨が手に入らなかった人たちは、マリ・スイードの代わりにヴェイル・オブ・グラモーガンのイウニーで作られた酒盛り用の大きなどんぶり鉢を携行して家々を廻ったからである。マリ・スイード一行と家の人々はクリスマスの喜びをこのような形で分かち合ったのだろう。

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