第23回------映画『ウェールズの山』のモーガンとジョーンズ師(1)

映画『ウェールズの山』のモーガンとジョーンズ師(1)

yoshiga-23.1

ヒュー•グラントが主演した『ウェールズの山』は1995年制作のイギリス映画で、ご覧になった方も多いであろう。

原題は「丘を登って山から下りてきたイングランド人(“THE ENGLISHMAN WHO WENT UP A HILL, BUT CAME DOWN A MOUNTAIN)という長ったらしいものだが、その原題にすべては語られている。しかし、日本語の題名『ウェールズの山』では何のことかわからない。まず「ウェールズ」からして、どれだけ知られているのか疑問だ。そのウェールズと山の関係がさらにわからない。「日本の山」「アメリカの山」「パタゴニアの山」???山岳ドキュメンタリと思った人もいるかもしれない。日本語の題名はなんとも味気なく、これで随分損をした映画かもしれない。

しかし、ウェールズ好きにはたまらない映画であり、一般の映画ファンにも暖かく歓迎された映画であった。この映画の粗筋は次のようなものである。第一次対戦中の1917年、イングランドから2人の測量士がウェールズのある村に、村人自慢の山の高さを測りにやってくる。1000フィート(305m)以上あれば山、それ以下なら丘と地図に記載されることになる。運命の測量の結果、その「山」は山と呼ぶには6メートル低く、彼らの分類からすると、それは丘であった。イングランド人に「山」を奪われ怒った村人たちは再測量を要求し、その間、村人総出でその丘の上に6mの盛り土を施すこととなった。再測量の結果、めでたくその丘は「山」と認定された。丘を山にしようと懸命に努力する村人の姿は涙ぐましくもあり、また滑稽でもあり、崇高でもある。それがこの映画を心温まる佳作としているのである。

イングランド人の測量士に扮するヒュー・グラントが主演といったが、本当の主役はウェールズの村民であった。その村民の中に、私には気になる人物が2人いる。パブの亭主モーガンと牧師のジョーンズだ。モーガンは「好色」モーガンとして村中にその悪名を轟かせている。ウェールズ人の苗字は同じものが多く、名前まで同じというのも決して珍しくはない。そこで、職業やその人物の特徴を識別用につける。車掌のトマスとか、教師のプリチャードとかである。

「好色」とは実にモーガンにふさわしい。時は第一次対戦中。男は戦場に行き、女は村に残る。生まれてくる赤子の顔や髪がみななんとなくモーガンに似ているので謹厳で、道徳に厳しい老牧師ジョーンズはモーガンを目の敵にする。日本語では「好色」となっているが、英語では「ヤギ」である。ヤギはウェールズの象徴で、ウェールズ連隊のマスコットにもなっている。そのヤギはイギリスでは繁殖力が強いことから「好色」を暗示させる動物である。このようなことから、「ヤギのモーガン」は好色なモーガンであるとともに、ウェールズの象徴でもある、ということで一件落着する。しかしこの解釈は模範解答的なもので、平凡すぎて、ちっとも面白くない。モーガンにはもっと何か別のものが隠されているのではないか?

この映画を見ていると、モーガンと天敵ジョーンズ師がばったり出くわす場面がある。その時、モーガンは「神、そらに知ろしめす。すべて世は事も無し」と19世紀イギリスの大詩人ロバート・ブラウニング(Robert Browning, 1812-89)の詩の一節を口ずさむ。これは有名な詩句なので、英米人だったら誰でもよく知っているといえばそれまでであろうが、このことはモーガンが詩人であることを暗示しているようにも思える。パブまたは酒と関係のある女好きのウェールズ人の詩人といえば、思い出すのはただ一人、ディラン・トマス(Dylan Thomas, 1914-53)である。

ディラン・トマスは、彼が「汚く美しい街(Ugly, lovely City)」と呼んだ南ウェールズのスウォンジーに生まれた。生まれた年は1914年なので、今年2014年は彼の生誕100周年記念に当たる。19歳にしてイギリス詩壇に颯爽として登場し、定職に就くことなく、詩を書くことだけで生計を立ていくしか生きる方法を知らなかった天才詩人であった。従って、常に金欠病。かといって、生活を切り詰めたり、貯蓄するという考えなど、一切もちあわせていなかった。金があるときはパブで見知らぬ者にまで酒を振る舞い、金のないときは皆から奢ってもらうという人気者でもあった。借金の能力に長け、借りた金は戻さない。女好きは止まるところを知らず、また女性からも大いにもてた。過度の飲酒により身体を壊しても、酒を止めることはなかった。そして1953年11月9日、第4回目のアメリカ講演旅行中、医師から禁止されていたにもかかわらず、ウィスキーを飲み、ニューヨークのホテルで急死してしまった。享年39歳であった。

これだけで好色モーガンとディラン・トマスを結びつけるのは少し乱暴で、根拠も乏しく、また異論・反論も多々あろうが、彼の生誕100周年記念に免じて、許してもらいたい。
yoshiga-23.2

 
ディラン・トマス   ウェールズ連隊のヤギ
yoshiga-23.3

ウェールズ日本人会 email
Wales Japan Club All Rights Reserved
www.walesjapanclub.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。