第24回------映画『ウェールズの山』のモーガンとジョーンズ師(2)

映画『ウェールズの山』のモーガンとジョーンズ師(2)

好色モーガンがディラン・トマスなら、ジョーンズ師は誰か?我らが「山」が実は丘であったことを知り落胆した村民を鼓舞し、丘を6m高くすることに民意を導いたのは愛国者ジョーンズ師であった。

彼は村の集会場に集まった村人に向かって演説するのだが、彼の立つ演壇の背後には「プライド•オワイン(Plaid Owain)」と書かれた横断幕のようなものが掲げてある。プライドとはウェールズ語で仲間や郎党、そして政党を意味する。またオワインとはウェールズ人の名である。従って「プライド•オワイン」とは「オワイン党」の意味になる。

ウェールズの歴史に多少の興味を持つ者としてオワインの名を聞いて思い出すのは、15世紀初頭、イングランドからの独立を目指して反乱を起こしたウェールズ人オワイン・グリンドゥール(Owain Glyndwr, 1349/59-1415)である。彼は1400年9月に蜂起し、イングランドを7年に渡り震撼させ、戦死することもなく、またイングランドに捕まることもなく、歴史の中に消えていったウェールズの英雄である。ジョーンズ師の背後に掛かる「プライド•オワイン」の文字は、村民たちがまさにあのオワイン・グリンドゥールの理想を継承する党員、すなわちイングランドに対し反旗を翻したウェールズ人の子孫であることを示しているのである。そしてこの「プライド•オワイン」からウェールズの政党プライド・カムリ(Plaid Cymru)を思い出す人は決して少なくはないであろう。

カムリとはウェールズ語で「ウェールズ」を意味する言葉だ。よって、プライド・カムリは「ウェールズ党」となる。このプライド・カムリの前身は1925年に設立されたウェールズ国民党であった。この国民党は、第二次大戦後政党として活動するようになり、その名をプライド・カムリと変更するのだが、当時のウェールズ国民党は政党というよりも、むしろウェールズ語とウェールズ文化を守り、産業中心のウェールズを農業中心のウェールズ語を話す国へと回帰させることを党是として設立された愛国団体であった。そのウェールズ国民党の創設に関わった中心人物の1人がソーンダース・ルイス(Saunders Lewis, 1893-1985)であった。彼はウェールズ語で詩や劇や評論を書き、20世紀のウェールズに多大の影響を与えた。ノーベル文学賞にノミネートされたこともあったという。

1936年9月8日早朝、当時プライド・カムリの党首であったソーンダース・ルイスは仲間2人と共に、北西ウェールズのプスヘリの近くのペニベルスに建設中のイギリス空軍の飛行場に忍び込み、爆撃訓練学校に放火した。この実行犯3人は、放火後、直ちに近くの警察に自首した。この放火と自首は初めからの筋書きで、きわめて政治的なものであった。というのは、3人の自首は、裁判という公の場でウェールズのナショナリズムを強く訴えるのが目的だったからである。すなわち、ペニベルスはウェールズの文化、言語、文学にとって極めて重要な場所であり、放火はそれを守るために行った愛国的行動だと主張しするためであった。北ウェールズのカーナーヴォンでの裁判では決着がつかず、裁判はロンドンに移った。ウェールズのナショナリズムをイングランドに知らしめようとする彼らの目的は、彼らの期待どおりに進んだが、裁判の結果、3人に9ヶ月の実刑が下った。しかし、彼らはウェールズ愛国主義者たちの英雄となった。このルイス等の爆撃訓練学校への放火は、オワイン・グリンドゥールの「反乱」以来500年ぶりのイングランドへの「攻撃」であり、「反乱」でもあったのだ。

話を映画に戻そう。村民たちはその「丘」の再測量を求めた。そのためには、2人の測量師が村から出て行かないようにしなければならなかった。好色モーガンも、カーディフに住む彼のガールフレンドを呼び寄せ、色仕掛けで彼らの出発を阻止しようとした。ジョーンズ師は測量士の車のタイヤを千枚通しのようなもので突き刺し、パンクさせてしまう。車が使えなくなった技師たちは汽車で村を出ようとするが、駅員は天気がよいにもかかわらず、雨のため汽車は不通だと言って、切符を売ってくれようとしない。このようにさまざまな妨害策が講じられたが、その多くはサボタージュであった。しかしジョーンズ師だけは、イングランド人の所有物である車をパンクさせるというれっきとした「犯罪」を犯した。器物破損である。タイヤをパンクさせた直後、彼はすぐに賛美歌「ブレッド・オブ・ヘブン」の一節を口ずさみ、神の許しを請うたのは言うまでもない。このイングランド人の車への「攻撃」は、ソーンダース・ルイスとその仲間によるイギリス空軍施設への放火と対応している。このように考えると、ジョーンズ師はソーンダース・ルイスと比定できる。

モーガン、すなわちディラン・トマス、ジョーンズ師すなわちソーンダース・ルイスというのは少々強引なこじつけかもしれない。また、穿ち過ぎ、深読みし過ぎという謗りを受けるかもしれないが、映画鑑賞後、あれこれとウンチクを傾けるひとつの材料になれば幸いである。

yoshiga 24

  ソーンダース・ルイス

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