岡崎さんのウェールズ滞在日記12

岡崎さんのウェールズ滞在日記12

ウェールズ補習校 保護者

12.様々な人との出会い

 先に書いたように、ジャネットさん宅でのクリスマスディナーは心温まる素敵なものでした。

 ご一緒にお食事を楽しんだジャネットさんのいとこのジョンは、博士号を持つ音楽の仕事をされている方で、様々なことを知っていました。とても視野が広く、記憶力も桁外れにすばらしかったことにわたしは驚愕してしまいました。私たちが年末パリに旅行に行くと言えば、絵の話題を率先して話し、モネが北斎に影響を受けたことや、また、ドビッシーも影響を受けていたのだなどと、教えてくれました。日本についてもよく知っていて、歴史の年号なども、パパッと出てきて、飽きさせずに楽しい話を展開してくれました。バセリーは、目が見えないのにどうして絵について理解できるのか、などとわたしが不思議に思ったことを素直にジョンに質問してくれたので、とても興味深く話をきくことができました。(知っている単語をつなげて、わたしなりに解釈をしたわけですが。)

 ジョンのお母さん(ジャネットさんの伯母さん)は、高齢により5分前のことを忘れてしまうとのことで、何度も同じ質問をしていましたが、皆自然に、時には笑いながら、答えていました。特にジャネットさんのお母さんは、お姉さんを気遣いながらも、上品な笑顔と会話で私たちを気遣って和ませてくれました。そしてそのジョンのお母さんは、目が不自由なジョンのことをいつも気にかけている様子で、やっぱり、お母さんだなぁ、いくつになっても自分の子供のことは心配なのだと思いました。

 ジョンは、わたしが勝手にイメージしていた全盲の方とは異なり、とても積極的で、海外へ仕事で行くときも一人で行くと聞き、驚いてしまいました。ジャネットさん家族と共にジョンと数時間を一緒に過ごせたことで、英国では、障害を持っている人を特別視するのではなく、対等で、できないことがあればそれをごく自然にサポートするということを改めて認識しました。また、サポートされる側も、サポートを快く受け入れ、萎縮することなく、堂々と自分の力を発揮していっている自然さに好感を持ちました。

 わたしがウェールズで初めてスーパーマーケットに行ったとき、英国は日本と異なる成熟した大人の社会なのだ、という強い認識を持ちました。それは、スーパーマーケットに車椅子の人のためのカートがあり、また、駐車場がどんなに混んでいても、障害者用のカースペースは空いているのを目にしたからです。そしてスーパーの中では、車椅子の人も健常者同様、ごく普通に買い物を楽しんでいました。英国に住んでみて、あらゆるところで、障害者へのサポート体制が整っているのだと知ることができました。電車に乗るときも、観劇の時も障害を持っている人は、特別なことという様子もなくサポートされていました。

 又それは、体制として整っているということだけではなく、一人ひとりの心の中に、不自由な思いをしている人には、自分ができることをしよう、という気持ちが育まれているのだと思いました。

 たとえば、地下鉄の構内で目が不自由と思われる人が歩いていると、スッと、そばにより、手を貸しましょうか、と声をかけエスカレーターに誘うビジネスマンがいました。また、「今日さあ、ものすごい化粧の女の子達が電車に乗って座ってしゃべくっていたんだけど、杖をついた老人が乗ってきたら、サッとその女の子が席を譲ったんだよね。」と息子が話していたこともあります。

 英国に住み慣れてきたある日、わたしはBridgendのスーパーマーケットのTescoでいつものように買い物をしてレジに並びました。すると、わたしの前に並んでいた人が、車椅子に乗り、事故の後遺症でしょうか、顔全体に紫色のあざを負っているのがわかりました。わたしは、とっさに視線をそらせていました。すると、お店のレジの人とその人との明るい会話が聞こえてきました。そして、わたしの番、レジの人は、わたしの前の人へと何ら変わらぬ対応や会話をわたしにしていました。この英国でのごく普通の情景が、わたしの心の中に強く残り、様々なことを考えるきっかけを与えてくれたのです。

 また、ディスレクシスという言葉を知ったのも英国に住んでからでした。お母さん同士の会話で、“自分の子がディスレクシス“ということを初対面でも普通に話題にし、どんなサポートを受けているのか、とか、将来への不安を話したりしているのを見聞きしました。障害を持っていることを隠そうとする日本で育ったわたしからは、どう反応していいか、、と最初戸惑うこともありました。でも、子供を、自分の子、という所有感と強い責任感を持って育てる日本の親と違い、英国では、子供は社会とともに育てるもの、という感覚なのではないかと考えるようになりました。障害に対しても、英国人は、障害はその人の個性、皆が同じではないということはごく普通のこと、と思っているように見受けました。そしてわたしは、英国人というのは、日本人の多くが他人の目を常に意識をして言動を選択しているのとは異なるのだ、と理解するようになっていったのです。

 子供が小さい頃、障害を持つ人に出会ったとき、子供が「あの人可哀想だね。」と私にいうと、「不便なことはあるかもね。でも、可哀想かどうかはわからないよね。だって、その人が幸せかどうかは他の人の目で決めるものじゃないから。」とこたえていました。偉そうに子供には言っていましたが、振り返るとその頃の私は、障害を持つ人に対して偏見を持たないようにしよう、という理性によってそのように言っていたように思います。

 英国に住むことができて本当に良かった、と思うのは、様々な人や場面に出会い、いろいろなことを深く考える機会を与えてもらえたこと気づかせてもらえたことがとても大きいのです。

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