補習校便り 2010年5月

補習校だより 2010年5月

国語は全ての教科の基礎

田口知子

 各教科の授業時数は、文部科学省が発行する学習指導要領(展示/掲示コーナーに展示中)で規定されています。各教科の授業時数は、小4までは、国語の授業時数が、一番多く、小5からは、国語と算数、数学は同等の時数(中学では英語の時数が一番多く、次が国数理)になります。

 国語の授業比率は、どの位を占めているでしょうか。小学校6年間の授業時数の合計は5645時間(コマ)で、このうち国語は1461時間(算数は1011時間)、中学校の合計授業時数は3045時間で、国語と数学はともに385時間です。国語の授業比率は、小学校で25.8%。中学校になると12.6%になりますが、小中9年間の総計時数8690時間で見ると、国語は1846時間で21%をしめます。国語が主要教科の中でも特に重要である理由は、文章の読み書きと思考能力が全ての教科の学習の基盤となるからです。

 では、どうしたら国語の力が身につくのでしょうか。算数なら、「二桁の計算ができる」のように課題が明確で、弱点が見つけやすいのですが、国語は知識の習得として、漢字と語彙を練習するほかに、読解といった活用力をつけていかなければいけません。国語力をつけるには、読書が一番ですが、読書は勉強でするものとは言えません。国語の基礎基本(文章の読み方と書き方)は、小4までにしっかりと身につけておくことが大切ですから、授業時数も多いわけです。日本の学校だと、国語を使ってほかの教科を学習していますから、全ての学習が国語につながります。海外では、この部分を、家庭学習でフォローすることが必要です。担任と連携して、地道に家庭学習を続けて下さい。

 次に、国語の授業の意義について、考えてみましょう。国語の教科書の文章が一読して内容が理解できれば、その学年相応の学力がついていると判断できます。しかし自分で好きな本を選ぶ読書とは異なり、国語の教科書には、自分からは読まないような内容や一読しただけでは読み取れない、読み応えのある文章が載っています。語句の意味調べをし、文脈を考えながら精読していくことは、家庭学習ではなかなかできないことです。教室で先生や友達と一緒に、対話をしながら、読み解いていく活動の中に、国語学習の意義があります。他の人が、自分と違う読みをしていたら、それは新たな発見であり、どうしてだろうと疑問が生まれれば、そこから知的な学習活動が進みます。

 その教科が好きになるには、学習内容が分かること(テストで点数がとれること)が重要な要素です。新しい教材や学習事項を分かりやすく、楽しく学習できるように、教師は教材の提示・料理の仕方を、いろいろ工夫しています。来週は参観日です。家庭学習で何をどうフォローすればよいか、有益な情報伝達の場になりますように。
(2010年5月1日)

国語の読み教材について

田口知子

 小中の国語の教科書は、光村図書、東京書籍、学校図書、教育出版、三省堂の5社から出版されています。指導要領に基づき作成された教科書は、申請→検定→修正を経て完成版となります。三月に発表された検定結果によると、今回の指導要領改訂で、国語は全体で25%のページ増。記録、報告、解説など、単なる読み書きにとどまらない言語活動が重視され、新しく設けられた「伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項」により、古文、漢文や昔話などが多く登場しました。低学年で神話を読んだり、高学年では俳句や故事成語、漢文が盛り込まれています。また今回から学年別の配当表以外の漢字も、振り仮名つきで載せられるようになりました。今まで、食どうと交ぜ書きをしていたのが、振り仮名つきで食堂とすることができ、漢字を読む機会が増えます。4年で習っていたローマ字は、3年生で扱います。どの教科書を使うかは、教育委員会の採択によります。(海外の日本人学校では国語は光村図書)

 現行の複数の教科書を見比べてみると、共通に登場する文学作品があるほか、小5の読み教材が他社では小6に掲載されていたり、別の読み物が紹介されていたりします。

 取り上げる教材の観点は、次のように示されています。 (ア)国語に対する関心を高め、国語を尊重する態度を育てるのに役立つこと。(イ)伝え合う力、思考力や想像力及び言語感覚を養うのに役立つこと。(ウ)公正かつ適切に判断する能力や態度を育てるのに役立つこと。(エ)科学的、論理的な見方や考え方をする態度を育て、視野を広げるのに役立つこと。(オ)生活を明るくし、強く正しく生きる意志を育てるのに役立つこと。(カ)生命を尊重し、他人を思いやる心を育てるのに役立つこと。(キ)自然を愛し、他人を思いやる心を育てるのに役立つこと。(ク)我が国の伝統と文化に対する理解と愛情を育てるのに役立つこと。(ケ)日本人としての自覚をもって国を愛し、国家、社会の発展を願う態度を育てるのに役立つこと。(コ)世界の風土や文化などを理解し、国際協調の精神を養うのに役立つこと。

 教科書には、精選された文章が掲載されています。ここで重要なことは、教科書を教えるのではなく、教科書で教えるということです。生徒の弱点補強に、読みの補助教材を独自で開発する学校もあります。「声に出して読みたい日本語」の著書で知られる斉藤孝氏は、小学生対象の私塾で使う「理想の国語教科書」を編集しています。最高レベルの日本語の散文に出会わせるために、31の世界の名文を取り上げています。内容をすべて理解する必要はなく、言葉遣いや漢字の練習にとらわれることなく、言葉の力、文章の力を体の奥にまでしみこませることがねらいで、現行の中2の教科書掲載の「走れメロス」も収録されています。実際に公立の小学校低学年児童に、これらの散文を使って授業をしてみて、子供たちの柔軟な文章の吸収力に驚いたと後書きにありました。

 国語は、これを読めば力がつくという決まった教材があるわけではなく、国語力の向上は、授業での学習訓練と、子供自身の学び(意欲や学習密度)と、子供の学びを後押しする周りの環境や家庭学習にかかっています。
(2010年5月8日)

国語教材をどう読むか(1)

田口知子

 3年ほど前、教育界でフィンランドが注目の的となりました。フィンランドは、経済協力開発機構(OECD)が行う国際学力調査(PISA)で、科学的リテラシー(応用力)、数学的リテラシー、読解力でトップクラスを維持しています。当初トップレベルだった日本は、回ごとに順位を落とし、特に読解力が14位にまで落ち込むと、新しく「読解」という授業を設け、フィンランドの国語の教科書の翻訳版を使う小学校まで現れました。フィンランド教育の成功は、教師の質や勤務環境、家庭をとりまく社会福祉制度などが背景にあるとした上で、勉強の質の違いを指摘する意見もあります。例えばフィンランドでは「勉強する」という言葉のかわりに「読む」をよく使うそうです。テストでは、書物を読み、その知識に基づいて小論文を書かせるなど、日頃から自分で考えて、問題解決を図る力が、訓練されているようです。

 小2の教科書に「スイミー」という話が載っています。レオ=レオニというオランダ人の絵本作家の作品です。小さな赤い魚たちの中でスイミーだけは真っ黒で、泳ぎは一番。まぐろにみんな食べられてしまって、一人ぼっちになりますが、再び小さな赤い魚の群れに出会います。そして大きな魚のふりをして、みんなで一緒に泳ごうと提案し、黒いスイミーが目になり、まぐろを追い出すという話です。

 日本の学校では、この教材は14時間かけて学習しますが、アメリカやフィンランドではこの程度の短い教材は、1時間で終わると聞いてびっくりしました。実際に日本で、ある教師がスイミーを使って、三時間計画で、三年生に子供主導型の話し合い授業をしました。既習教材を使うと、学級全員が教材を理解しやすいので、議論が活発になるメリットがあります。事前に子供たちに疑問に思うことや話し合いたいと思うことを出させて、発問を絞り込みました。主な発問は「赤い魚たちは、なぜスイミーの考えについていったのか」「この話から学んだことは何だろう」の二つです。

 話し合い授業は、しっかりと読めていることが前提です。教材の内容によっては、重要な言葉や表現を一つ一つ拾い上げながら精読する学習活動が必要ですが、読みの深さが授業時数に比例するとは、一概に言い切れません。さらっと読める話なら、話し合い活動を通して、読みを深めることもできます。その場合は、対立する意見が出そうな効果的な発問を設定できるかどうかにかかっています。今回私も、「スイミー」の話の教訓について考えてみました。
(2010年5月15日)

国語教材をどう読むか(2)

田口知子

 教科書の出版会社は、教師用指導書も出版しています。指導書には、作者や作品の情報、語彙や表現の説明、指導目標、一時間ごとの授業案が載っています。生徒の実態にあわせ、生徒にどんな力をつけさせたいのか、授業者自身も教材研究をしますが、指導書は、専門家によって書かれた物です。国語専門でない教師には、大切な指導の指針になります。例えば「スイミー」の単元では、授業時間14時間のうち、読みに10時間、書きに4時間あてるようになっています。主な学習事項は、易しい読み物に興味を持って読む、登場人物の気持ちや場面の様子を想像を広げながら読む、語や文としてのまとまりや内容、響きなどについて考えながら工夫して音読する、おもしろい本を友達に紹介する紹介カードを書く、の四つです。

 二年生では、表現を大切にした精読重視の授業を行いますから、「スイミー」から学んだことは、何だろうという発問は、まず登場しないでしょう。「スイミー」を上の学年で学習するのであれば、この発問で活発な討論活動が展開できそうです。国語の読み教材は、極端な言い方をすれば、小学生から中学生まで共通の教材を使うことができます。もちろん、読みの深さに応じた学習課題が設定できる読み物に限られますが、国語の教材は、学年の枠にとらわれない柔軟性を持っているのが、おもしろい点です。

 どうすれば読解力を伸ばすことができるか、教師にとっては一番の課題です。教員研修会でも話題になります。物語文の精読型授業について、教育課程研究官が次のような意見を述べています。「すべての表現を大切にする指導が、長時間型授業を支えている。これが読解力もつかず、読書意欲も育てず、国語嫌いにしている。」精読自体が悪いのではなく、あまり読書をしない子供たちに極端な遅読をさせ、分かりきったことをだらだらやるから国語嫌い、本嫌いにさせ、段落や場面ごとに細切れに読むから、全体構造を把握できなくしている、と言う意見です。

 さて「スイミー」の教訓について、私は、みんなで協力する素晴らしさを伝える話だと思いました。ところが、フィンランドの子供たちなら、「リーダーシップの大切さを教えている」と答えるそうです。「集団の協議を重視する日本の教師が、みんなで力を合わせるという、テキストに書いていない日本型の道徳観を押し付けている。」という研究官のコメントに、カルチャーショックを覚えました。

 スイミーは泳ぎが一番速く、他のみんながおそろしいまぐろにのみこまれた中で、一匹だけ逃げることができたのは、スイミーの優れた資質です。こわく、さびしく、悲しい中で、海の中のおもしろい物を見るたびに元気をとりもどしていったスイミーには、不屈の精神があります。岩陰に小さな魚の兄弟たちを見つけ、出てきて、みんなで遊ぼう、と誘うスイミーには、よびかける指導力があります。しり込みする仲間に、いつまでもじっとしているわけにはいかないよと言うスイミーには、危機管理力があります。うんと考えぬくスイミーの思考力。みんな一緒に、大きな魚のふりをして泳ごうと提案する企画力。黒い自分が目になろうと、提案する率先力。スイミーは、欧米で重視されるリーダーシップの大切さを教えています。こうしてみると、国語の教科書は、おもしろい読み物の宝庫のように思えます。一つの読み物を親子で読んで、家庭読書会をするのも、おもしろそうです。
(2010年5月29日)

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