校長先生の日々12: 作文指導

校長先生の日々(12)作文指導

 文集作文を書く時期がやってきました。今年度のテーマは「一番」です。作文を書くのは、本当に面倒なものです。書くことが見つからなかったり、下書きが思うように進まなかったり、苦労がつきものです。私は、作文指導は、書き始めるまでが、勝負だと考えています。児童生徒にとっては、ここが一番苦労する部分なので、毎年、授業の中で題材捜しに時間をとっています。ある日、担任から提案があり、私が中学生合同授業で、一時間作文指導をすることになりました。ほとんどの生徒が題材が決まっていないと言うので、題材捜しの授業をすることにしました。

 最初に「作文は、何のために書くのでしょうか。」と質問すると、スパッと本音が返ってきました。「作文は、文集のために書かなくてはいけないから、書いているんです。」文章力アップなどという模範回答をするよりも、いたって健全です。読書家のA君は「作文は好きとは言えないが、それほど嫌いでもない」そして、何事にもまじめに取り組むIさんは「友だちの作文を読むのは、おもしろいです。」と遠慮がちに答えてくれました。

 そこで、すかさず力説しました。「作文には普段の会話には出てこない話題が登場するのが、おもしろいですよね。へえ、この人にはこんな体験があったのか、とかへえ、この人はこんなことを考えていたのかって、思うことがあるでしょう。作文は、その人の知られざる一面を伝えてくれます。皆さんも、作文で自分のことを他の人に伝えて下さい。あなたにしか書けない題材を見つけて下さい。」

 次に、脚本家三谷幸喜さんの文章のコピーを配りました。朝日新聞に連載中の「ありふれた生活」で目にとまった、原稿用紙三枚程度の文章です。サブタイトルは「一番暑かったこの夏」です。「一番」をテーマに、こんな普通の出来事が、作文の題材になるのだということを伝えるのに、ぴったりの文章です。この文章を通して、三谷さんの人柄を考え、どこからそれが分かるか、印象的な文章表現を出し合いました。

 例えば、三谷さんは、カップめんが好物で、その食べ方にもこだわりがあります。まず、お湯を入れる前に、乾燥具材のエビを少しかじってみます。汁を吸い、膨張した姿を想像し、お湯を注ぐ楽しみ。暑い夏にあえて熱いめんを汗だくで食べる爽快感。奥さんが留守中で、朝からカップめんを食べても、怒る人が誰もいない幸せ。そして、このあまりの偏食とペットの犬との散歩の時間が減ったせいで、二キロも太ってしまったというしめくくり。日常のなんでもない出来事を通して、書き手の人柄や個性が、鮮やかに見えてきます。

 題材はどんなところからでも拾えるということを確認した後、各人で題材捜しに入りました。頭に浮かぶ事柄を、どんどんノートにメモしていきます。しかし、発想が全く広がらないらしく、O君が「今年のテーマが一番難しいなあ。」とぽつりとつぶやきました。「それ、いいですね。タイトルは、一番難しかった作文。これから苦労して、作文を仕上げていく過程を書いてもいいですね。」ところが、O君は「その手は、もう使いましたあ。」と気の無い返事。同じ手は二度使わないところに、中学生たるプライドをにじませています。

 「やっぱり、日本が一番。ジャパンナンバーワン。」とO君が話題を変えました。理由は、食べ物がおいしいからだと言います。それならば、日本の食文化を掘り下げ、日本人の心や自分なりの物の見方を書いてみるとよいと助言すると、今度は隣のI君と二人で、「イギリスのお菓子でベストは何か。」とお菓子談義を始めました。「日英のお菓子比較論、おおいにけっこう。」とはっぱをかけます。一歩、気を抜くと、単なるおしゃべりに発展しそう瀬戸際ですが、言葉をどんどん引き出していかないと、ブレーンストーミングにはなりません。そこで題材捜しでは、ある程度自由に話をさせます。そうした会話を聞きながら、宿題で題材を決めてきたHさんとYさんは、余裕で構成メモを練っています。「スポーツのことになるかも。」とU君は一人静かに思索中。その時、メモの手を止めてMさんが、「楽しいことや思い出がありすぎて、どれが一番かって決められない。」と言います。
 「じゃあ、一番のない私。」「あ、それ、よさそう。」Mさんの目がパッと輝きました。

 三週間後。全員の下書きができてきました。家で考え直した新しい題材の作文。書きながら、内容が変わった作文。どの作文からも、一人一人の思いと個性が伝わってきます。こんなことも考えていたのねえ。一生懸命、考えて書いてきたのねえ。国語の学習で、作文書きは、生徒も教師も労力を要する部分ですが、私には一番おもしろくて感動的です。実はこれが、私が作文指導を続けるエネルギー源になっています。

(2011年1月)

ウェールズ日本人会 email
Wales Japan Club All Rights Reserved
www.walesjapanclub.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。